第283回東洋史談話会(2017年5月27日開催)

  • 題 目:「明清交替期における福建南部沿海宗族社会の変遷 ―漳州府龍渓県白石丁氏を例として―」
  • 報告者:亀岡 敦子氏(北海道大学大学院文学研究科 専門研究員)
  • 要 旨
    本報告は、明清交替期(17世紀)における中国福建南部の宗族の変容と再建について、漳州府龍渓県二十九三十都白石社に居住する白石丁氏一族を事例として取り上げて検討するものである。白石丁氏一族にとって、一族の始遷祖である丁儒と二十九三十都一帯の用水路を開鑿したとされる南宋時代の進士九世丁知幾の事績、および一族の祠堂の存在は、彼らが地域で威信を示し、社会混乱を生き延びる上で拠り所とされるものであった。とりわけ、遷界令を機に発生した他姓宗族との土地訴訟においては、族譜の記載は丁氏一族の土地所有権の根拠とされたと考えられる。清初の三回にわたる族譜編纂は、訴訟に勝利するためになされたともいえる。他姓との訴訟や武力衝突が続く中、丁氏一族は祠堂の再建を地方政府から公認され、宗族として再び凝集しようとしたが、その活動の経済的基盤となったものは、台湾に居住する同族からの送金であり、以前のように一地域に集住する族人同士の相互扶助ではなくなっていたのである。