第298回東洋史談話会(2020年10月23日開催)要旨

題目:トルコ・イズミル留学報告記「オスマン語史料はどこにあるのか」

報告者:末森晴賀

要旨

オスマン史を専門とする者が史料収集に向かう先は、オスマン朝の都であったイスタンブールか現在のトルコ共和国の首都であるアンカラの図書館・文書館である。これら中央の図書館にはオスマン語の膨大な写本や文書が収蔵されている上、アラビア語やペルシア語などの写本も豊富なためオスマン史以外の研究者を見かけることも多い。近年では中央にある史料を中心に管理や閲覧の一元化・デジタル化がめざましく、史料へのアクセスが非常に容易になっている。しかし、実際のところオスマン語史料はイスタンブールやアンカラ以外の場所にも存在する。報告者は2017年1月から2020年3月までトルコ・イズミルのエーゲ大学へ留学中に周辺地域の図書館で実地調査を行った。その知見をもとに、地方の図書館(イズミル・ティレのネジプ・パシャ図書館)を中心に、トルコ国外の図書館(ギリシア、クレタ・イラクリオンのヴィケリア図書館)、刊行史料について紹介を行った。
ネジプ・パシャ図書館には貴重な史料が収蔵されているものの、それらの整理は途上にあり蔵書の全貌は不明なままである。そのため中央の横断的な検索システム上に登録されていない、あるいは誤って登録されているものも多い。それだけに今後重要な史料が発見される可能性もあり、本格的な調査が待たれる。また、デジタル化も進んでおらず史料の現物を閲覧できる上に書庫の内部も見学させてもらえる。これは今日イスタンブールやアンカラの図書館・文書館で史料のデジタル画像のみ提供されることに比べて貴重な機会である。クレタのヴィケリア図書館も同様である。
このように地方や国外の図書館に興味深い史料が隠れているかもしれない一方で、刊行史料の存在も見逃せない。近年トルコでは写本や文書の刊行が急速に進められており、図書館や文書館のウェブサイトからPDFの形で入手できる他、各出版社からも刊行されている。これらも効果的に活用することで研究の幅が一段と広がると思われる。