題目:「『実例の書』をめぐる試論:ポスト古典期アラビア語圏における普遍史と王権論の交錯」
報告者:荒井悠太(日本学術振興会PD)
要旨
本報告では、14世紀のアラブ史家イブン・ハルドゥーンによる『実例』をもとに、アラブ政治思想の伝統が歴史叙述のなかにいかに取り込まれているかを考察した。イブン・ハルドゥーンはその「序説」(『歴史序説』)のなかで王権(ムルク)や族的指導権(リヤーサ)、権力独占(イスティブダード)に関する精緻な理論を発展させているが、同時に彼は過去の歴史を記述するに際しても、アラブやテュルクの支配集団を形容するに際してしばしば政治権力にまつわる性格付けを行っており、かかる性格付けは『実例』における各王朝史の配列にも影響している可能性を指摘した。